ダダダダダダダッ……

そう、例えて言うなら暴れ牛が爆走するような……

 雛 :「ちえちゃんになにしてんのよぉぉぉっ! このっ、変態ぃぃぃぃっ!」

ゲシッ 

もの凄いスピードで突進してきた小物体は、俺の脇腹に鋭いケリを放った。

 陸 :「モルスァ!?」

我ながら奇怪な叫びをあげて吹っ飛ぶ。

 薫 :「陸くん!?」

ちえり:「はうぁ!?」

 陸 :「うぐぉぉぉ……」

い、息ができないくらい痛ぇ……

 雛 :「大丈夫!? ちえちゃんっ」

ちえり:「え? ええ?」

いまいち状況が理解できてないちえりちゃんは、目を丸くしている。

 雛 :「もう安心してね! この変態はひなが成敗したからっ」

 陸 :「って、誰が変態だコラァァ!」

 雛 :「あによ、変態は変態じゃない」

 陸 :「出会い頭に跳び蹴りってのはどういう了見だっ」

 雛 :「ふんっだ。ちえちゃんに変なことしようとしたのが悪い」

 陸 :「してねーし、しようともしてねー!」

 雛 :「ウソつかないでよねっ!」

雛ちゃんはビシリと指を突きつける。

 雛 :「聞いたわよ! 朝早くからちえちゃんのこと呼び出したんでしょ!」

 陸 :「な、なんだその微妙に誤解を招きそうな情報は」

確かに間違ってはいないけど……

 陸 :「って、ちょっと待て。その情報は誰に聞いたんだ?」

 雛 :「縁ちゃん」

 陸 :「うがあああああっ! またあの人かぁぁぁっ」

相変わらず事態をややこしくしてからにっ。

 陸 :「いいか、誤解があるようだから説明するけど、俺たちは今日、日直なの!」

 陸 :「だから、ちえりちゃんと待ち合わせして早めに登校しただけだっ」

 雛 :「はえ? そうなの?」

ちえり:「う、うん。そうだよ」

 雛 :「なーんだ♪ それならそうと早く言ってくれればいいのに」

 陸 :「言う前にケリを入れたのは誰だよ」

 雛 :「あー、不幸な事故だったね」

 陸 :「事故で済ますな!」

 雛 :「だってぇー、日直だなんて知らなかったんだもん。それって、不可抗力じゃない?」

ちえり:「雛ちゃん、わたし昨日電話で言ったよぉ」

 陸 :「と、ちえりさんは仰られてるぞ」

 雛 :「そ、そうだっけ? あは、あははは……」

笑って誤魔化しやがった。

 雛 :「と、とにかく。陸くんは前科があるんだから疑われるのは仕方ないのっ」

 陸 :「んな無茶苦茶な……」

ちえり:「雛ちゃん。ちゃんとりっくんに謝った方がいいよ?」

 雛 :「な、なんでひなが……」

ちえり:「雛ちゃん……」

ちえりちゃんは、雛ちゃんの顔を無言で見つめる。

 雛 :「う……わ、わかった」

そう言うと、雛ちゃんは俺の方を向いた。

 雛 :「えと……疑って、ごめん」

バツが悪そうにしながらも、雛ちゃんはペコリと頭を下げた。

 陸 :「え、いや、誤解だって分かってくれたんなら、もういいんだ」

驚いたな。
ちえちちゃんの言うことは素直に聞くんだ。

 雛 :「これでいい?」

ちえり:「うん。偉いよ、雛ちゃん」

 雛 :「えへへ♪」

雛ちゃんが照れ臭そうに笑う。
なるほど。
いつもは雛ちゃんが主導権を握っているように見えるけど、実際は、ちえりちゃんの方だったんだ。

 雛 :「うふふ、ちえちゃん……だーい好き♪」

……え?

ちえり:「ふふ、ちえりも」

 雛 :「やったぁ!」



 雛 :「んー……」

ちえり:「んっ」

 陸 :「な、ななっ!?」

ちえりちゃんと雛ちゃんの2人は、平然とキスをしていた。
さて、これはいったい……
えーと。
頭の中で宇宙が誕生し、ドロドロの地球が冷え、生物が海から陸に上がる。
陸に上がった生物は進化をし、いつしか人間が生まれ、文明を栄えさせて……
そして、ちえりちゃんと雛ちゃんがキスをした。

 陸 :「なんだ!? なにやってんの!?」

 薫 :「ああ、陸くんは初めて見るんだっけ」

 陸 :「ど、どゆこと? ていうか、なんで誰も驚かないの?」

俺は激しく混乱しながら訊く。

 薫 :「もうみんな慣れちゃったからだと思うよ」

 陸 :「慣れ……って、こんなこといつもやってんのか!?」

 薫 :「うん」

 陸 :「な、仲が良いとは思ってたけど、そういう関係だったのか……」

 薫 :「それは違うみたい」

 陸 :「え?」

 薫 :「レズとかそういうのじゃなくて……挨拶みたいなものだって」

 陸 :「ますますわけわけらん」

変な人だからけの深澤学園で、数少ない常識人かと思ってたちえりちゃんが……
やっぱり、彼女もこの学園の人間だってことなのだろうか。
にっこりと微笑むちえりちゃんと、嬉しそうな雛ちゃんの笑顔。
しかし、これでいいのだろうか?
俺は頭を捻りながら、二人の姿を見つめるのだった。