[おうめ] | 私、謙信様みたいになりたいっ! |
そう言って出してきたのは、一本の枝。 |
謙信様が受け取ると、子供達も枝を握って構えをとる。 |
[上杉謙信] | ほう、そのかわり手加減はせぬぞ |
[おうめ] | うんっ! |
[上杉謙信] | 兼続! 力を貸せ。手加減などするなよっ! |
謙信様は兼続へ目で合図をされる。なるほど加減をしろということか。 |
[直江兼続] | は、はいっ! |
兼続が構えるのを待ち、子供達が謙信様へと斬りかかった。 |
それにしても、謙信様。俺を呼んでくれなかったな……。 |
子供達の相手もできないほど、剣術の評価をされていないということか。 |
あまりにも情けない。 |
はぁ……とため息をつき下を向くと、女の子が俺を見上げていた。 |
[天城颯馬] | うん? 皆とあそばないのか? |
[つ る] | あ、あのね。お兄ちゃん、大道芸をしていたお兄ちゃんだよね? |
[天城颯馬] | えっ……。あっ、あの時の |
折り鶴を渡そうとした女の子だった。 |
[つ る] | あの時は、ごめんなさい…… |
[天城颯馬] | いや、俺の方こそごめんね。あまりに怪しい格好をしていたから…… |
[つ る] | ううんっ! あ、あのね。あの時の芸の続きがみたいの! |
[天城颯馬] | そ、そう。でも、芸は謙信様にするなと止められていて |
[つ る] | そうなの? |
悲しそうな顔の女の子……何とかしてあげたいけれど……謙信様に聞いてみるか。 |
[天城颯馬] | 謙信様! この子があの時の大道芸を見たいというのですが |
[上杉謙信] | 解った。だが、あまり目立つものはするなっ! |
[天城颯馬] | はいっ! よかった許可がとれたよ。見ててくれよ。さて、お立ち会い―― |
かけ声に子供達が集まってくる。その前で狗法を使った芸をはじめた。 |
[天城颯馬] | 大丈夫か? 兼続。死にそうに見えるけど…… |
[直江兼続] | だ、大丈夫に決まっている……はぁはぁ |
子供達に追いかけ回された兼続は、大分経つのに苦しそうな呼吸を繰り返している。 |
[上杉謙信] | はは、兼続にとっては、戦場の敵よりも子供達のほうが手強いらしいな |
[直江兼続] | はぁはぁ……頼もしい限りです。上杉の将来も安泰ですね…… |
[上杉謙信] | そう……だろうか? |
[天城颯馬] | えっ? |
[上杉謙信] | 安泰とは、武など必要のない世ではないか? |
確かにそのとおりだ。 |
戦というのは破壊と殺戮しか生み出さない。 |
争いのない世界になれば、そもそも武など必要無い。武が必要なこと自体が安泰ではない証拠だ。 |
[直江兼続] | は、はい、そうですね。戦が無く、武など必要のない世を作るのが一番だと思います |
[上杉謙信] | 兼続、颯馬。このような乱世は、私の代で終わらせたいと思っている。皆が笑い暮らし、安心して子が産める世を作り、次代へと引き継げる世をな |
謙信様が空をみあげるのを見て、空へと視線を向ける。 |
[天城颯馬] | はい、俺もそう思います。謙信様の目指す世を作るため、俺も努力をさせていただきます |
[直江兼続] | 私も同じ気持ちです。謙信様が目指す世を共有し、上杉のお子様には戦の無い世で過ごしていただけるようにしたいと思います |
[上杉謙信] | ありがとう。颯馬、兼続。しかし、私は子をもうけるつもりがない |
[天城颯馬] | えっ? |
[上杉謙信] | 還俗したとはいえ、一度は仏門へと入った身。その時に子は作らぬと誓っている |
[直江兼続] | そんな……それでは上杉が滅んでしまうではありませんか |
[上杉謙信] | 他の長尾の家から養子をとることに決めている……そのうち話す機会もあるだろう |
[天城颯馬] | そ、そうなのですか |
突然の告白に俺達は言葉を失い、その背を追うことしか出来なかった。 |